ナンパとストーカーの境界線。伝え方や伝わり方で人間関係って終わるんだなと思った話



犬の散歩に行っていると、近所をウロウロする同じような散歩組によく出会う。
そうすると何度か同じ人とよく出会うこともままあって、それが今日、同じ人に4回も出会った。

道を変え、いつもの行先を変え、それでも顔を合わすことになると会釈も少々気まずい。

そして思い出したのは、むかし、ちょっとストーカーっぽい男につきまとわれたことだ。


カラオケ店でのバイトはなかなか面白い体験をすることが多かった。

そのなかのひとつが、ナンパ。
飲んで歌って遊ぶ場だから皆さまなかなか色んな方面にはっちゃけっていて、お酒でずいぶんご機嫌になった人が友人たちの「試しに声かけてみろや~」「罰ゲーム~」「これがチャンスやで!」なんて応援を背に声をかけてくるのだ。

ノリでやっていることなので適当に流して「お飲み物こちらにおいておきますねー」なんてその場を離れるのだが、
その男、Aは違った。

「ベリショってなかなか見ないよねー。めっちゃ好み」


そんなことを言って笑ったAはお酒が適度に入っていてニコニコひとあたりのいい顔。
とりあえず「ありがとうございまーす」と流してその場を離れていたのだが、



次の週もきて、

「アシバーさんっていうんだね」

数日後にきて、

「このまえ原付で●●あたり走ってたでしょ」

またきて、

「アシバーさんってこれが好きなんでしょ?」



と話が続いていく。
ノリじゃなくナンパだったのか…?と疑いだしたころ、雲行きがますます怪しくなっていく。

「アシバーさんって●●高校行ってたんだね」
「俺も一人旅とか好きなんだけど一緒に行ける人がいたらいいとは思うんだよね」
「●●薬局に行ってたよね」
「俺もこの歌好き」


あ~、ちょっと、一歩間違えたらヤバイな。
というより嫌な感じがすげーするな、と思っていたらどんどん話が続いていく。
なにがヤベエって私はなにも自分のことを話さずすべての質問をはぐらかしているのに、すべての答えがあっていることだ。


「どこらへんに住んでるの?」

家の近くに現れて、この言葉。
さすがにゾッとしてネットでストーカーについて調べるが、

Aはお店に来て歌って飲んでいるだけだ。飲み物を運んでくる店員に話しかけているだけ。
実害はない。
ナンパしているだけ、ともいえる。それが少し過ぎているだけともいえる。


けれどまた、話したことがないことをAはどんどん笑顔で話してくる。
家の近くで会うのだ。
店内のどこにいても、私がときどき行く店でも、行きつけの店でも、家にどんどん近くなっていく場所でも

「前もこの近くで会ったよね。家は●●の辺りかな」


──これは、危ない。

かといって警察に相談となるとなにやら大事なようで二の足踏んでしまう。
かといって家族や友人に相談するにしても心配をかけすぎてしまうのではと気おくれする。


……さきに結論をいうと、私は逃げることに成功した。

都合がいいことに、私はバイト先にAを好きな女先輩がいて、端的に言えば彼女とAをくっつけた。
まるく収まった、収まっただろうというやつだ。

というのも、彼女の言動はびっくりするぐらいAとよく似ていた。
Aと会話をしたことがないのにAのあらかたを知っているような女性で、Aが注目している私のことをひどく毛嫌いしていた。

なので私は全力で彼女の恋を応援した。

そしてなんの仕事をしにきているのかよく分からなくなってきたのでバイトは辞めた。ゴキブリがわんさかでる店だったので心残りはない。
あとは散歩コースや行きつけの店を変え、適度にひきこもりつつ過ごしたのだ。


しばらくして、やたらとキラキラと飾られたメッセージが携帯に届く。
結婚しました★
似た者同士なかよくやってほしい。



…まあ、実害がなかったのでこんなことあったなと話せますが、いま改めて冷静に考えてみてもアイツやばかったな。
というより普通に怖いし、運よくまるく収まったけれどなにかのきっかけでやばい方向に進んだ可能性だってある。


振り返ってみれば、あのときの私はもうちょっと人を頼るべきだったなと思う。
せめて身近な人に相談したほうがよかった。

言わなくても伝わるとか、不安にさせたくないとか、自意識過剰だったら恥ずかしいとか申し訳ないとか、大事にしたくないとか、

いろんな理由をつけずに、

怖いとか困っていることがあると感じたら「いまこんなことに直面してるの。話を聞いて」って勇気をだしたほうがよかった。


1人で抱え込むと思い込みが激しくなって世界がどんどん狭くなっていく。
それで、こうに違いないって自分で逃げ道塞いでなりふり構わず最終手段を手に取ってしまう。

他人は思うより自分のことを見てないから自分で言葉とか行動とかで訴えなきゃいけないのに、
それを放棄して、
考えるっていう疲れることを投げ出して自分のなかだけで解決しようとしてしまう。

数十秒話すだけのことをすごく重いものにしてしまう。



……でも、なによりも大事だと思うのは自分の気持ちをどう伝えるかだ。
率直な助けてとかの言葉を振り絞る勇気はもちろん大切だけど、

追い詰められて言葉を絞り出す前に、
できることとして話すという手段を、じぶんを表現する方法、伝えるということを日常でするのが本当に大事だなと思う。


「こいつ、いいな」


そう思って声をかけただけのナンパは、
相手にとって怖く面倒臭くただのやべえストーカーに思われることもあるだろう。
実際そうだったのかもしれない。

Aに関して言える確かなことは、
もしAがナンパをしていただけというのなら方法をかなり深刻に間違えていた。そしてそれは相手に最悪な記憶を抱かせた。

相手のことが気になってしょうがなくて情報を集めることに興奮する性質にしても、
知っている情報のなかに好きな相手に追い詰められると喜ぶ性格なんて情報がない限り、相手を追い詰めるのは悪手でしかない。

なんのために情報を集めてるんだ。
活用できる能力がなさすぎるのか、ただの独りよがりなのか、都合のいい世界しか見ていないのか、コミュニケーションの問題か。
情報を活かすにしても怖がらせたり不安にさせたりするのなら、能力不足かその過程を楽しんでいるだけの変態だ。


自分を表現する方法や伝える方法が違えば変わっていくことは確かにある。
ナンパがストーカーに見えてしまうことも、
ストーカーばりに情報収集したあとただのナンパとしてみられ見事成功することもある。


ものごとの境界線って曖昧だね。
なのに意味合いがまるで違っていて、伝え方や伝わり方で人間関係は終わってしまう。


自分を訴える言葉や表現の仕方を大事にして、
実際に数十秒でも誰かに伝えることを、日常でしていきたい。

コロナで不特定多数の人と話すことが少なくなって、よりそう思う。




最後に…
ストーカーで悩んでる人、そうまではいかないけれど怖いことがある人、相談っていう勇気を。

警察署一覧

警察署では、あなたを守ることを最優先に考えて相談体制を整えています。つきまとい等を受けたら、すぐに最寄りの警察署にご相談ください。あなたの申出に応じて、相手方に警察署長等から「ストーカー行為をやめなさい」と警告することができます。

また、「その行為はやめなさい」と禁止命令を行うこともできます。

あなたが「ストーカー行為」の被害にあっている場合は、警告や禁止命令以外に、処罰を求めることもできます。

ストーカー規制法 警視庁 (metro.tokyo.jp)

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