もしも、Xmas!in学園③(セルリオ視点

【狂った勇者が望んだこと】の番外編、 セルリオ視点
もしも皆同じ学園だったばあい →もしも、クリスマスin学園③


最近ぐっと寒くなって登下校が辛い。制服の下に着込んでマフラーを羽織って手袋に帽子を被ってもまだ寒い。
確か天気予報ではまだ寒くなるって言っていた。
見上げれば雪が積もっているかのような真っ白な空が見えてしまう。ああ、見なかったらよかった。

「セルリオ!お前相変わらず着こんでんなっ!」
「そういうハースは今日も元気だね」
「そりゃそうだろ。しかも今日はなんてったってクリスマスイブだしな」

もしかしたら誘われるかもな!なんて言って笑うハースはこの前、なんでクリスマスイヴもクリスマスも平日なんだって凄く怒っていたのに今日はこれだ。切り替えが早い。

「桜おはよう!ねえねえ!クリスマス2人っきりで遊ぼうよっ!勿論今日も!というか特に今日も!」
「梅おはよう。あと、急に背後から飛びついてくんの止めてもらえませんかね。腰が……」

賑やかな声に振り返れば、新庄先輩と伏見先輩がいた。同じ学年じゃなくても知ってる。きっとこの学校の人全員が知っているだろう。

新庄先輩。
黒髪ショートカットですらりとした高身長、落ち着いたアルトの声で、穏やかに微笑む人だ。いつもピンと伸びた姿勢で、つい目がいってしまう。女性ながらとてもカッコいいと思う人だ。

伏見先輩。
緩やかなパーマをかけた蜂蜜色がとても似合う小柄な可愛い人だ。前よりもぐっと明るくなった彼女は新庄先輩が大好きらしく、いつも新庄先輩といる。
2人のやりとりはなんだか凄く微笑ましい。

近くなってくる距離に、いつの間にか止まっていた足に気がついて歩き始める。
同じように新庄先輩たちを見ていたハースも遅れて一緒に歩き出して、耳打ちしてくる。

「伏見先輩ってすっげー可愛いよな」
「ハースはそればっかりだね」
「だってそうだろ。っても彼氏がいるんじゃな」
「伏見先輩って彼氏いるんだ」

そんな噂は聞かなかった。
伏見先輩に彼氏が出来たなら光の速さで伝わってきそうなものなのに。ハースはきょとんとして、笑う。

「新庄先輩だって」
「……?新庄先輩は女性だろ?」
「あんなかっけー女がいてたまるか。智美ちゃんも新庄先輩が好きって言ってたし……。比べられても困るし……」
「えーっと、どんまい?」

どうやらハースはこの前フラれた女の子のことをひきずっているらしい。
断るときの常套文句である「他に好きな人がいる」でフラれるならまだしも、「新庄先輩以上にカッコいい人じゃないと無理」とフラれたのだから当然かもしれない。

校門に近づいて風紀委員のひとたちが挨拶運動をしているのが見えてくる。風紀委員にならなくてよかったと心の底から思った瞬間だった。

「お!梅ちゃんに桜じゃん!っはよ!」
「おはよ、梅ちゃん、桜」
「おはよ!太一くん!響くん!」
「はよ、太一。響もはよ」

風紀委員で立っていた男子がこちらを見てぱあっと笑顔になったかと思うと、ハースみたいに元気に声をあげた。
同時に隣を通り過ぎたシトラスの香り。
目で追えば僕とそう変わらない目線に黒髪が見えた。
ああ、そうだ。あの人たちは新庄先輩と伏見先輩と仲の良い男子の先輩達だ。

「そうだ桜!放課後集まろうぜ!」
「つれのいない面子が集まる寂しいクリスマスイブ会だそうです」
「響、それ自分で言うのか」
「駄目!桜は私と一緒に遊ぶの。今日は太一くんと響くんも駄目!女子会だからっ!」
「ええーー!そんな!」
「いいじゃん。皆で」
「せめて今日は駄目!」
「お前のそのこだわりはなんなんだ……」

声が遠のいていく。
ハースは「リア充まじで羨ましい」と肩を落として笑っていた。こっそり振り返ってみれば、楽しそうに笑う輪を、僕みたいにちらりとちらりと窺っている人が見えた。
その視線は新庄先輩や伏見先輩に注がれている。

「かっこいい、か」



+++++++


「お前ら今日……つーか明日予定とかあんの?ねえよな」

昼休み、それぞれ弁当を広げながら他愛もない話をしていたら、ハースが疑問というより確認で聞いてくる。

「ないよ。安心して」
「俺も」
「私もだ」

安心させるために笑って答えれば、コリンもディレクも同じような声色で答えた。それがなにか反感を買ったらしい。ハースが一気に不機嫌になった。

「お前らなんだその目は……あー!ムシャクシャする。セルリオ!ジュース買ってきてくれ」
「なんで僕が……」
「お前の奢ってやるから」
「じゃあいいけど。ディレクとコリンは?」
「俺はいい」
「俺も」
「分かった。ハースのことよろしくね」
「おー」
「なんだよそれ」

ぎゃあぎゃあ五月蝿いハースから千円札を受け取って食堂に向かう。

恋人と暮らすクリスマス。

どんなものかあまり想像できない。大分前に告白されて付き合ったときを思い出してみても、やっぱりイベントを恋人と一緒に過ごす楽しさというのが分からなかった。そもそも恋人というのもあまり分からない。
思い出すのは口をかみ締めて眉を寄せる女の子の顔。
『セルリオくんって、私のこと、好きじゃないよね』
そう言われて、確かそんなことないと答えた。事実そう思っていた。でも彼女には足りなかったようで、最終的には『セルリオくんってつまんない』とフラれた。

「……ハースのせいで僕までなんか暗くなっちゃったじゃないか」

飲み物2つ自販機で買って騒がしい食堂をあとにする。
通り過ぎざま聞こえる会話にはクリスマスという単語が浮かび上がっていた。皆、誰がどう過ごすのか、自分がどう過ごそうかと考えて心がふわふわしているらしい。

なんだかすぐに戻るのが馬鹿らしくなって、お気に入りの場所である図書室に移動する。図書室は静かでいい。ぼおっとできる。図書室の中に飲食物は持ち込めないから隣の準備室に入る。図書委員だからもしなにか言われてもはぐらかせるだろう。
人目の着かない場所に飲み物を隠して、さあ図書室に移動しようとしたときだった。
ドアが開いた。
慌てたような息遣いと、白い手。そして黒髪が見える。
彼女はなにかから逃げてきたらしい。中にいる僕のことを確認する前にそおっと音を立てずにドアを閉めて、鍵をかけた。
はあっと大きく響く溜息。ドアを背もたれにして座り込んだ彼女がようやく僕の存在に気がついた。

「え?あ、ごめん。あーもしかして出ようとしてたところ?」
「そうです、ね」

彼女、新庄先輩は左唇つりあげて困ったように笑う。

「悪いけどもうちょっとだけ待ってくれないか?」
「……大丈夫ですよ。誰かに追われてるんですか?」

あの新庄先輩が目の前にいて、話してる。不思議な感覚だった。折角だから隠しておいた飲み物を取り出して1つ新庄先輩に渡す。

「いいの?」
「はい」
「サンキュ」

微笑む新庄先輩は蓋を開けると一気飲みするんじゃないかという勢いで飲んでいく。
ところどころ男らしい人だ。

「まー、なんというかクラスメイトに追われているというかなんというか」
「大変ですね」
「ん」

口元を拭った新庄先輩は廊下に聞き耳を立てる。僕も耳を済ませてみればクリスマスという単語が聞こえた。新庄さんはまだ見つからないの、という言葉も。

「クリスマスで追われてるんですか?」
「ん。今日は梅……女友達と2人で遊ぶってことをクラスの友達に言ったら、お祭り連中だからな……じゃあクリスマスは大勢で遊ぼうぜとか意味の分からん話になっていって……店貸し切ってクリスマス会?するようになったんだ」
「それは賑やかそうですね」
「店も貸しきれるか分からないのに既に決定事項だからな。んで招待制度とか無駄に手の込んだ……そうだ」

疲れた顔をしていた新庄先輩がいいことを思いついたといわんばかりに目を輝かせた。
ちょっと可愛いと思ってしまう。

「はい、これ招待券。私無駄にいっぱいノルマあってさ、よかったら来て」

見れば伝票と同じぐらいの大きさに切られたルーズリーフに少しの飾りとともに招待状と書かれていて、端に新庄桜と書かれていた。招待客の欄は空白だ。
視線を新庄先輩に移せば、僕の返事を待ってじっと僕のことを見ていた。
だけど気のせいだろうか?逃がすもんかという言葉が背後に見える。

「クリスマス会?」
「そ。明日……場所は、まあ、多分、あの店だろうな。決まったら連絡する。費用は1500円。どお?」
「僕が行っていいんですか?」
「勿論。むしろ有難い」
「じゃあ、是非」
「サンキュ。あ、名前教えて?私の名前は新庄。新庄桜」
「セルリオです」
「サンキュ」

招待状に僕の名前が書かれていく。
それだけでも不思議なのに、新庄先輩が携帯をだしてお互いに連絡先を登録までしている。
ハースがいまの光景を見たらさぞかし驚くことだろう。

「そうだ、このクリスマス会に来てくれそうな奴、あー、セルリオの友達でいないか?」
「僕の?あー、います。3人」
「そいつらの分の招待状も書いときたいんだけど、名前聞いて良い?」
「ハースと、ディレクと、コリンです。多分凄く喜びますよ」
「助かる」

綺麗な字だなあ。すらすらと書かれていく文字を眺める。
全て書き終えた新庄先輩は満足そうに口元を緩めると4枚になった招待状を手渡してきた。受け取った僕は、呆然としていてうまく話せない。

「よし、もう大丈夫そうだな」

もう一度廊下のほうに耳を傾けた新庄先輩は安心したように溜息を吐いたあと、ペットボトルを片手に手を振った。

「これ、ありがと。助かった」

微笑む顔につられて僕も笑って手を振る。開いたドアが閉まり際に「明日楽しみにしてる」と言葉を残していった。
まるで台風のようだ。
椅子に座り込んで、静かな時間に浸ってみると、ついさっきの出来事が夢のように思えた。消えない招待状だけが現実だと教えてくれる。

「かっこいい、けど、綺麗なんだよな。新庄先輩って」

なんとなく朝には見つからなかった答えを見つけて、少しすっきりする。今度は僕がハースたちを驚かせよう。
そうすればきっとハースの分の飲み物を新庄先輩に渡してしまったことだって、ハースは些細なことだと忘れてくれるはずだ。


もしセルリオが桜と同じ学校にいるのが普通だったら、普通に敬語で話してるだろうなあ。先輩と後輩の距離感は勇者と兵士の距離感と微妙に似た感じ。
憧れは共通している。


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