【途切れた物語】閑話03女神さまと少年
イメラとリヒトのお話
僕の村は小さい。
村外れの丘の上にあるロイ兄ちゃんの家から村の入り口までセリナとシーラで歩いてみたけど、時間はそんなにかからなかった。確か20分?ぐらいだったと思う。うん。
そんなんだから隠れる場所も走り回れる場所も少なくて、僕たちはなかなか思い切り遊べない。お母さんに外に行きたいって言ってみたけど駄目だって怒られる。いっつも五月蝿いんだよなあ。
外に一番近くにある川は僕のお気に入りだ。囲いがある場所を越えちゃいけないけど、水遊びもできるし、洗濯だって言えばずぶ濡れになっても怒られない。
今日も川遊びをしてビチャビチャになった服を絞りながら村に戻った。地面に水の痕がつくのが面白い。
「あれなんだろ?」
「皆外に出てる」
「もしかして語り人がきたのかな!?」
1年に1回ぐらい、僕の村に迷いこんだ人がやってくる。それで、えっと、3人に1人は語り人だ。僕は2回会ったことがある。5才のときと、7才のとき。語り人はいろんなことを知っていて、色んな話をしてくれた。
外の世界のお話は面白かった。勇者様の話も話す人によって違うくて不思議な感じがしたけど、お姫様と勇者の話とか聞いたことのない魔法を使う人の話とか女神様と人間のこととかこの世界のどこかにある神木は女神様の姿になるとか、とにかく、色んな話が面白かった!
僕は語り人になりたいなあ。色んな場所を見て僕みたいな子供に、今度は僕が教えてあげるんだ。それでそれで、語り人の人も言ってたけど、本当じゃないけれどワクワクする物語をいっぱい作って皆に聞かせてあげるんだ。
「リヒト待ってよー!」
シーラの声が聞こえたけど早く語り人から物語を教えてほしくて無視した。あれ?なんか騒がしいなあ。ロイ兄ちゃん?と、誰だろう。
大きな声はロイ兄ちゃんで、聞いたことがない声はのんびりした感じだった。女の人の声だ。
「――住み心地がよさそうね」
え?今度の人は村に住むの?
わあ!それならいっぱい色んな話聞ける!僕たちと遊んでくれるかなあ。
いつもなら数日滞在しただけで、この村に寄った人は村を出てもう帰って来ない。そんなに外の世界は凄いんだろうか。お母さんに怒られるけどさ、ここだって凄くいい所だと思うのになあ。
ロイ兄ちゃんは反対みたいだけど僕は大賛成だ。輪になってる大人たちの間を潜り抜けて女の人を応援しに行く。
「――村長さんってどこかしら?」
僕が案内するよ!
やっと大人たちを出し抜いて、ロイ兄ちゃんと女の人の居る場所まで辿り着いた。それで、手を上げて大声でそういうはずだった。
……女神様?
ロイ兄ちゃんと話していた女の人は女神様だった。お日様の光が眩しい。キラキラ波打ってる。ああ、あれは髪の毛か。綺麗だなあ。女神様はすごく白い肌だ。透明に見えるけど、青空が透けないから違うや。
僕のお母さんとはぜんぜん違う。シーラやセリナとも違う。
綺麗だ。
あの語り人は本当かどうか分からないって言ってたけど、女神様はいるんだ。じゃあこの女神様は神木?
お願い事言ったら叶えてくれるのかなあ。あの伝説みたいに。
――わ。
女神様と目があった。
蒼い目だ。空と同じぐらいはっきりした色で綺麗。ドキドキ心臓が鳴る。女神様が目の前にいる。
僕は女神様を助けるためにここまで来たのに、なぜか僕はまた大人たちの間をくぐって家に駆け込んだ。追い付いたシーラとセリナが変な顔をして僕になにか言ってたけど、それどころじゃないんだ。
「こらリヒト!家のなかが濡れるでしょうが!水遊びをしたらちゃんと服を絞ってから――どうしたんだい?」
お母さんが玄関で立ち尽くす僕を見つけてまた怒って、でもすぐに変な顔をする。
なんだかぼおっとする。
「僕、女神様を見た」
「……はあ。よかったじゃないか。どうだったんだい?」
呆れたお母さんの顔に女神様の姿が過る。
「お母さんと全然違う。すっごく綺麗だっ、いた!」
「さっさと服を着替えなさい!」
お母さんは鼻息荒く家の奥に戻っていく。いい匂いがする。お腹すいた。
……明日も女神様いるかなあ。
次の日も女神様はいて凄く嬉しかったけど、僕は話しかけることができなかった。話せたのは数日後、ロイ兄ちゃんが僕を女神様に紹介してくれた。
僕の行動が僕が女神様を嫌ってるって勘違いを女神様にさせてるっていうのを聞いて、勇気を振り絞って女神様に自己紹介をした。
女神様は震えて裏返ったぼくの声を最後まで聞いてくれた。
「これからよろしくね、リヒトくん。私の名前はイメラっていうの」
女神様はイメラっていう名前だった。お姉ちゃんって読んでもいいんだって!
イメラ姉ちゃんの笑った笑顔はすっごくすっごく綺麗だった。
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