とある勇者の日常その3

カーテンの向こう側から眩しい光が存在を訴えてくる。ベッドから体を起こしていつもの癖で電気を点けようとして、まだ昼頃だということに気がついた。

眠い。

二度寝をしようとしたけど、寝落ちしたチャットはどうなったか気になってPCを立ち上げる。
案の定一言二言相手が呟いた後、途切れてしまっている。ゲームのことを話していたら時間はあっという間。それで昨日みたいに寝落ちすることは多々あるから気にしなくったっていいだろう。
動画サイトを開いてプレイ動画を見る。耳を覆うヘッドホンが煩わしい音を遮断してくれる。響く銃声、ゾンビが倒れる映像、笑う実況者の声。
PCを見続けていると目が乾いてくる。何度か目を擦って目薬をつけて、また、動画を見る。しばらくしたら誰かが家から出る音が聞こえてくるんだ。母さんがパートの仕事に出たんだろう。
動画を止めて階段を下りる。机の上にはラップがかけられた食事が置いてあった。温めるのも面倒でラップを外して携帯を触りながら食べる。

あーあ。つまらない。

食べ終わった食器を台所に置いて、コップとコーラを持って2階に上がる。ヘッドホンをつけて、動画を再生する。コップに注いだコーラが喉をシュワシュワと通っていく。ゲップがでた。
めんどい。
飽きて次のプレイ動画を探す。ああ、こんなゲームあったんだ。ぼんやり眺めて適当にコメントをする。

だるい。

なんだかやる気が起きなくて椅子にもたれて天井を見上げる。凄く、凄く、暇。でもなんにもしたくない。

今日は父さんの帰りは遅い。母さんは遅番だからやっぱり遅い。それまでは俺のゴールデンタイムで、帰ってきたら……いつも見たいに寝とけばいいか。それで2人とも寝たら飯食ってチャットに備えるか。
今日の予定を立てながらぼんやりしていると、子供独特の甲高い声が聞こえてきた。丁度聞いていた音楽が途切れた瞬間で、なんとなく、ヘッドホンを外す。

「なー宿題一緒にしようぜー」
「おー!んじゃお前んち行くぞ」
「つかゲームしようぜー」
「どっちだよ」

楽しそうに笑う声に不快な気持ちになる。聞くんじゃなかった。
ヘッドホンをしてまた動画を探す。小学校はもう授業は終わったのか。でも高校はまだ終わっていない。授業が終わっても部活動だってあるし、それに。

「あーめんどいっ」

立ち上がった瞬間、ヘッドホンが引っ張られて床に落ちる。ガタガタと揺れたPCにぶつかったコップからコーラが零れて机を汚す。めんどうだ。近くにあった服でコーラを拭きとって、捨てる。
居心地の良いはずの空間が時々とてつもなく煩わしくなる。吐き気までしそうな暑苦しさが襲ってきて体を包んでくる。

ああ、嫌だ。もう嫌でたまらない。

全部なにもいらない。なにも聞きたくない見たくない。なにも。俺以外なにも。
ゲームに没頭している時間が好きだ。なにも考えなくていい。選択肢を選んで、死んでも適当にコンティニューして、お気に入りの装備を身につけて、知らない奴と安全に会話してればいい。
それだけでいいのに。
苛立ちに身を任せてヘッドホンを踏みつけようとした瞬間、ぐにゃりと視界が揺らぐ。船で酔ったときのような感覚だった。
そしてその一瞬後、足元にあったはずのヘッドホンがなくなって、石畳が目に映った。ぼんやり、視線を上にあげる。俺だけしかいない部屋が、俺の部屋じゃなくて、しかも、知らない奴らが大勢いた。

「はあ?意味分かんね」

ゲームをしすぎたせいか、変な夢を見ているらしい。なんてリアルなクソゲーだ。
ぼんやり動く目の前の光景を眺める。

ああ、PC触りたい。


【狂った勇者が望んだこと】の番外編、とある勇者の話③
──翔太の場合


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