【狂った勇者が望んだこと】の番外編、 レオル視点
もしも皆同じ学園だったばあい →もしも、クリスマスin学園②
最近面白い奴がいる。
高校の教育実習なんて糞面倒くさいだけだと思ってたけど捨てたもんじゃない。
ぎゃあぎゃあきゃあきゃあ耳障りな声で叫ぶ奴らや影でせっせと妬みをいう奴らと違って、あいつは俺を見るとまず嫌そうに口元をひきつかせてから、なにも見なかったとでもいうように真顔になる。
だからご希望に応えてちょっとちょっかい出してみれば露骨に嫌そうにしてくれて──ああ、面白いな。
「分かった!明日は皆で遊ぼう!」
「どうせだから色んな奴が集まったら楽しくね?数時間店貸し切っちゃって騒ごうぜ!」
「でも多すぎてもな……この2人がいたらすっげ集まるだろ。だから招待制にするとかどうですかね」
「それ楽しそう!じゃあ、1人5人誘うのはどうかな?!1人1500円で、5人で7500円、私と桜と太一くんと響くんが誘うから×4で30000円!」
「30000円で店貸切とか出来ないだろ」
「……癪だけど、あてはあるんだよね。あいつの店」
「ああ……。確かにあいつならいいって言いそう……」
「よっしゃ!じゃあそこで!」
「いやいや、まだ決まってねえし」
聞こえてきた会話に頬が緩んでしまう。いいことを聞いた。
+++
昼休みに姿を見かけたのは偶然だった。足早に歩く姿は見慣れたもので、恐らく、女子生徒たちにことあるごとに呼びかけられる面倒を避けているところなんだろう。
「桜、こっちだよ」
「ぅわ……レオル、先生」
「いいね、そのプレイ」
「ほんと黙っててもらえませんかね。つか、なんですか」
隣に並んで、手をひいて案内する。桜は文句を言いつつも限界になるまで手を振りほどいたりしないで最後まで付き合う。
面白いなあ。
数学の準備室はコネがきいて自由に使える代物で、こういうときに凄く便利だ。
「いっつも大変そうだね」
「その一因からそんなねぎらいを貰えるとは思わなかったですね」
「いいねえ」
「で、なにか用ですか」
「招待券頂戴」
「……ああ。……ん?なんで」
「うわー素のなんでだったね」
「そりゃそうでしょ。生徒のクリスマス会になんでアンタ誘うんだって話だよ」
「親睦を深めるため?」
「そこで疑問系か」
やれやれと肩を落とす桜の両手を握れば、すぐさま桜は顔を上げる。綺麗な焦げ茶の瞳が見えた。じっと俺の様子を観察している。
まだ大丈夫なのか。
手を絡めてみれば、眉が寄った。
にっこり笑ってみれば、頬をひくつかせた。
「いいねえ」
「お前ほんとなんなんだよ……」
「レオル先生」
「お前が先生とか……」
また、だけどさっきより深く項垂れた桜は「最初のときだって」とブツブツ文句を言っている。
初めて会ったときか。あれは俺もよく覚えている。インスピレーションってああいうのを言うんだろう。見た瞬間、絶対、面白くなるって思った。
「……なに」
手に力を入れれば桜は訝しそうに俺を見上げてくる。そこには少しの警戒があった。
ああ、流石にちょっとは分かってきたか。
腕をひいて、反抗しようと踏ん張る足を蹴って体勢を崩させる。胸元に倒れこんできた桜を抱きしめてすぐには逃げられないようにした。頭に顔を埋めればやっぱり良い匂いがする。
最初に会ったときはこうしたら少しの間を置いて桜は思い切り俺を突き飛ばしてきたけれど、今じゃすっかり諦めモードだ。
いい傾向だ。
「レオル先生、これはアウトじゃないですかね」
「いいねえ」
「はい黙れ。いいからさっさと離せこの糞野朗」
「いいねえ」
早く、早く、諦めてほしいな。
レオルはどこでもレオル。
大学3年生で教育実習で高校に来てる。ちなみに数学教師。