01.世界の始まり





【途切れた物語】01




見上げた先に見えたのは爽快な空だった。

蒼くてとても綺麗な空。

女は声のだしかたを忘れて魅入る。女の目には空しか見えなかった。視界を遮るものなんてなにひとつない美しい空だ。

限界まで見開かれた女の目がゆるゆると弧を描いていく。無意識に伸ばしていた手が陽にあたり影を作った。指の隙間から漏れ出る眩しい光にうっすらと涙が浮かぶ。

──ようやくなのだ。ようやくこれから私の人生が送れる。

歓喜に震える胸は熱く、叫びだしたいような笑い出したいような心地だった。女は人形のように整った顔をくしゃりと歪め、泣き笑いに似た表情で、けれど満面の笑みを浮かべる。

そっと歩を進める。

しっかりとした地面の固さや、柔らかい草の感触も足裏に感じた。鼻から息を吸い込めば甘い香りがする。これは足元に咲く白い花の匂いだろうか。風が吹いて青々と茂る野がざわざわと揺れる。花弁が舞い、女を歓迎するように女の頭上に降り注ぐ。

綺麗だった。

眼に映るものすべてがキラキラと眩いほどに輝き、綺麗だった。小高い丘のうえ、見えるははるか彼方には野が描く地平線。空に限りなく近く、遠い場所。

女の長い金色の髪が風の動きに合わせて揺らぐ。まるで合わせるように質素なワンピースも揺れて、女の白い肌をさらけだす。

女はいままで届くことの無かった世界に足を踏み入れて、浮かれていた。初めて満たされた満足感に幸せを覚えていて、忘れていたのだ。

歩を進める女を遮るように金色の髪がゆらりと視界を遮る──


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